輸入・廃番文房具の発掘メモ

古い文房具を集めています。見つけた文房具や資料を紹介しています。

真似るは学ぶ、青になれたかヨット鉛筆

最近アメリカン(リード)ペンシルの製品に興味を持っています。

普通の鉛筆や筆箱の中に
時々お茶目な製品があることに気づき、
ちょっと意識して探したりしています。


そして先日見つけたのがこれ。

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アメリカンペンシルの製品です。
大きな鉛筆に見えますが、、

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見えますが、、

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鉛筆型のペンケースです。

芯の部分も一見本物に見えますが、木でできており、塗装されています。

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中には定規と鉛筆が一本。

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ケースも鉛筆も軸の部分の塗装が美しいです。

いつ頃の物かな、と思ったら
1904年のカタログに似たようなものが載っていました。

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まったく同じではないので、これよりも後だとは思います。
でも1900年代早目の時期のものではないでしょうか。

カタログに載っている内容をよく読むと「SLATE PENCIL」の文字が目に留まります
鉛筆の芯が通常の芯ではなく石筆の鉛筆です。

確認すると私が入手したものも石筆でした。

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SLATEの文字が見えますね。
確認で書いてみたところ、紙にはやはりかけませんでした。


そしてこのペンケースのセットを入手して、まだわが家に届いていないときに
こんなものを見つけました。

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ん?何となく似てる。

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本体は紙の筒ですが先端は木でできています。

さて、なんだろうこれは。

中身を確認します。

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あれ???

これってアメリカンペンシルのペンケースのセットと酷似しているのでは?
となるとどうしても二つ並べて比べたくなります。
これを置いていたお店にお願いして譲っていただきました。

そしてアメリカンペンシルのセットが到着。

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色や模様の細かいところは違いますが
雰囲気はとてもよく似ています。

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ペンケースは差がありますが
これはまず間違いなくアメリカンペンシルのペンケースセットをお手本にしたに違いありません。

そしてそれを作ったのはどうやら「ヨット鉛筆」という今はない鉛筆メーカーです。
ケースには何もありませんでしたが、鉛筆にヨット鉛筆と刻印されていました。

ヨット鉛筆がこれを作ったと知り、
思わず笑ってしまいました

昔の鉛筆は海外の鉛筆のパッケージや軸のデザインをお手本にした(つまり真似た)ものが多数存在するのですが、
私が知っている中でヨット鉛筆の「マネ」はかなり難易度が高いところを攻めているのです。


この鉛筆の軸の塗装も、結構難しいのではないかと思いますよ。
軸にちゃんときらきらも取り込んでいるあたり、ヨット鉛筆のこだわりを感じます。


最初にヨット鉛筆の「マネ」意識の高さを知ったのはこの鉛筆でした。

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STAEDTLER DUO CHROMEという鉛筆です。

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手前はヨット鉛筆のデュエットという鉛筆です。
軸が似てますよね。

でも軸の模様が似ているだけならよくあることです。
もっとそっくりなものもあります。

この鉛筆、赤と青の二色なんですが、
ちょっと変わっているのは

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両端で赤と青が分かれているのではなく
芯自体が赤と青が半円形でくっついた形になっているのです。

ステッドラーが作ったこの鉛筆をお手本にして
ヨット鉛筆も同じようなものを作ったようです。

単なる両端で色違いの赤青鉛筆にしないところが
ヨット鉛筆のマネ意識の高さと言いましょうか。

ちなみにステッドラーは黄色い軸のバージョンもあります。

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そしてヨット鉛筆のマネ意識の高さに、尊敬の念すら感じてすごいと思ったのがこれ。

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上はヨハン・ファーバー、下がヨット鉛筆です。

これ、薄い木に文字をエンボスして作られています。
両方とも本物の木を使っています。

デザインの細かなところまで一致しているこだわりもすごいのですが
木でこれを作るのはそうとう難しいのではないかと思います。

他にもっと楽な「マネ」があるでしょうと思うのですが、
ヨット鉛筆すごいです。

箱の封をするテープのデザインもよく似ています。

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中には紙の中敷きがあり、その中に鉛筆が入っています。
ヨハン・ファーバーの方は中身が無く箱だけで入手したのでどういうものが入っていたかはわかりません。

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ヨット鉛筆の鉛筆はこれです。

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写真ではわかりにくいのですが、鉛筆の軸は細かいひび割れのような塗装がされています。

そしてそのひび割れ塗装は、アメリカンペンシルの代表的鉛筆「VENUS」で良く使われているものです。

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ヨット鉛筆の方は中の紙に特許の番号があったので、調べたところ
芯の製造に関する特許で昭和23年の物でした。

となるとこれは戦後の商品です。
まず、ヨハンファーバーの方が古いでしょう。

ステッドラーをお手本にしたと思われる赤青鉛筆も
箱のデザインを見るとさほど古くないので
ステッドラーの方が古いです。

アメリカンペンシルについても、紙のペンケースの質感などから
アメリカンペンシルの方が古いと思われます。


つまりどれもヨット鉛筆は、海外の製品をお手本に
自社の製品を作ったと推察されます。

それにしても難易度の高いところを突いてますね。
ひび割れ鉛筆の塗装もかなり難しいものであると
以前聞いたことがあります。


昨日友人達とたまたま「学ぶ」と「まねる」について話をしていました。
「学ぶ」の語源は「まねる」だそうです。

自分ではできないことをまず真似て、そこから独自の改良を加えて
より良いものにするというのは、学ぶ上では有効な手段だと思います。

問題は、ただ真似ただけなのか、そうではなく学ぶ一過程で似てしまったのかなのかなと思います。

もちろん既にできているモノには著作権などいろいろな権利があるので
そういうものへの配慮は必要です。



青は藍より出でで、藍より青し

ということわざがあります。
弟子がその師を追い抜くことです。

このレベルの高いマネをしていたヨット鉛筆は
青になれたのでしょうか。

残念ながら既に無い会社なので、青くはなれなかったのかなと思います。

では、そもそも青くなろうとしたのでしょうか。

気になるところですが、もうわかりませんね。

ただ、こういうものがあることは
古文房具集めが面白くなる一つの要素であることは
間違いありません。

またどこかから高難易度の「マネ」が発見されるのを
ひそかに楽しみにしています。