昭和18年頃の仕掛け封筒
洒落た封筒が手に入った。
以前封筒について調べていた時に、写真を見たことがあり、欲しいと思っていた。
そのため、お世話になっている骨董屋さんが持っていることを知り
即断で購入した。
こんな感じの絵ががいてあるので一見便箋かと思うが、
便箋一体型封筒というのだろうか、
手紙を書いて、そのまま折りたたんで封をして投函する封筒だ。
軍事郵便となっている。
メーカー名は印刷が切れており、よくわからないのだが
「東京犀朴至大舘」と読める。
その上には早口言葉でおなじみの「農商局特許局」の文字が!
の名称だったのは昭和18年から20年だけだったようなのと
これと似たタイプの封筒で昭和18年のものがあるので、
これも大体その頃のものと推定した。
さて、どういう封筒なのか。
タイトルであらかたわかると思うが、
動画を撮ったのでどちらをご覧いただきたい。
細部までとても丁寧に作られているポップアップ封筒だ。
中身がわかっていても、開いた時は感動した。
そして状態も素晴らしい。
外側は汚れや退色があるが、
中は本当にきれい。
こういう繊細なつくりのものは、まっとうな状態で残っていることが少ないのに
よくぞ残っていた!というところだ。
嬉しくて何回も閉じたり開いたりしているよ。
開明墨汁 スーパークーラ レモンライムソーダ
いつもお世話になっている骨董屋さんが
「これ、缶に入っている墨なんだけど」と
見せてくれた。
残っている値段のシールから130円がかろうじて読める。
巻いてある紙には田口商会の登録商標である梅鉢マークに「開明墨汁」の文字。
蓋にも開明のマークがついている。
骨董屋さんの言葉に続きがあって
「缶に入った墨なんだけど、紙をむいちゃって、そしたら・・・」
と言って見せてくれたのだが、巻いてある紙の下から出てきたものにびっくりだ。
あれ?
あれれ???
あら!
なんと!開明墨汁が入っている缶は「SUPER COOLA LE<PM&LIME
SODA」の缶だった。
え?え?え?どういうこと?再利用?でもこの飲み物日本で見たことない。
改めてよく見ると、ふたの形が変わっている。
王冠タイプだが、引き手がついていて栓抜き無しでも開けられるタイプだ。
レモンライムソーダの缶にも「SANITARY DRINKING TOP」と印刷されており
ふたが特徴であるように見える。
もしかしたらこの蓋を作る技術を持っている会社に委託したとかだろうか。
缶をもう少しよく見てみると、、
これはレモンライムソーダの成分。
この「Cantrell & Cochrane corporation」というのがメーカーだ。
そこで、この社名で調べてみたところ、19世紀から続く飲料老舗メーカーで、
どうもジンジャーエールを最初に作った会社とのこと。
商標は「C&C」。アメリア、カナダ、イギリスで主に売られているらしい。
ちなみに合併や事業の買収・譲渡を繰り返しているが今もある会社だ。
更に検索すると、このレモンライムソーダは1952年の製品という情報があった。
同じラインナップで他にもチェリーやオレンジ、コーラなどの種類があり、
これと同じ空き缶が販売されているサイトもあったが、130ドル(約14,000円)と
結構な値段だ。
130ドルは高すぎるにしても、「日本の液体墨が入れられていたC&C SUPER COOLA」の缶」となるとかなりのレアアイテムにになるのではないだろうか。
私が缶コレクターだったら飛びつくと思う。
海外オークションに出してみようか。(笑)
これと同じ缶の写真を見て、わかったことが一つ。
オリジナルの蓋は普通の王冠で引手はついていない。
ということは、この引手の付いたふたは日本で作られたオリジナルなのだろう。
梅鉢マークも入っているし。
すると本体のC&Cのレモンライムソーダの缶は、どういう事情で使うことになったのだろうか。
蓋が日本オリジナルだとすると、本体の容器は、口部分が同じ口径・形の容器で、
その上数かまとまっていないと都合が悪いはずだ。
そう考えると飲料として販売したものを再利用というのは考えづらい気がする。
もしかしたら、この飲料を日本で製造課販売しようとしたが、その計画が中断したなどで、容器だけ大量に余ってしまったのを買い取ったというのはどうだろう。
根拠なしの妄想だが。
こんな事を考えてみるのも面白い。
少し前にもブログで紹介したが、開明ブランドのユニークな製品が立て続けに見つかっている。
ユニークと言ってもウケを狙ったというのではなく、当時の工夫が今見るとユニークに見えるのだ。
ちなみに、以前紹介したにんじんかトマトジュースのように見える朱墨液。
田口商会 ジュースのような開明墨汁 - 輸入・廃番文房具の発掘メモ
今回この缶入り墨汁を持って来てくれた骨董屋さんは、
朱墨液を売ってくれた骨董屋さんと同じ方だ。
「あれ、まだあるよ」
ありがとうございます。一つで充分です!
また何があったらよろしくお願いします。
粉末インク、結晶インク
2、3年前だと思う。よく珍しいものを持ってきてくれる骨董屋さんがある日こんなことを言っていた。
「粉のインク。小さなガラスの入れ物に入っているんだ。
あんなの他に見たことないよ。
それを持ってこようと思ってるんだけど、小さくて見つからないんだ。」
パイロットの粉のインクは持っているが、それはさほど古くない。
骨董屋さんの話によると、もっと古いものらしい。
「へぇー、私も見たことないよ。見つかったら持って来てね。」
そういう話を聞くと、気になって探してしまうし
見たこともないのに欲しいものリストにリストアップされる。
探せば見つかるもので、あるとき粉末状のインキを骨董市で発見した。
「これのことかな。」
確かにガラスの小さなチューブに入っており、
一緒にあったものが大正頃のものだったので時代的にもつじつまが合う。
だが、見つけたそれはちょっと予算的に合わず、いったん見送った。
そしてその時見送ったのと同じものを、後日かなりお手頃の価格で手に入れることができた。
状態は悪いが、価値はお値段以上である。
蓋がなく、綿が詰めてあった。
サイズは単三電池位の大きさだ。
箱も傷んでいるが、「粉末インクの素」「オリジナルインク」の文字が読める。
また、「万年筆用」「筆記用」とも書いてある。
残念ながら説明書は上半分が消えてしまっているが
「定価50銭」「温湯または」「インクの素を2,3杯入れて」など作り方が書かれているのが読み取れる。
一つ見つかると芋づる式に見つかるもので、
明治43年の三越の文房具カタログに「結晶インク」なるものが掲載されているのが見つかった。
同じように小さなチューブに入っているようだが、
こちらは粉末ではなく錠剤というか、タブレットの形をしている。
説明を読むと、これを直接万年筆に入れ、水を加えて混ぜるようだ。
ちゃんと解けずに万年筆が詰まってしまいそうだが、実際はどうだったのだろう。
更に、これは日本で考案されたのではなく、欧米から来たようだと思われるものを見つけた。
ペリカンの粉末インクだ。
おそらくペリカンだけでなく、複数社で作られていたのではないかと思われる。
それが日本に輸入され、日本でも作られるようになったのだろう。
メーカー不明だが、前出の「粉末インクの素 オリジナルインク」と
「ペリカンの粉末インク」、「三越のカタログ」を見つけたところで
これらをまとめてブログに書こうと思った矢先のことだ。
「粉のインク、見つかったよ。」
最初のこのインクのことを教えてくれた骨董屋さんが
倉庫の中から、この小さなインクを発見してきてくれた。
「オリジナルインク」と同じものが出てくるかと思ったが、ちょっと違って
「プラトン」という昔万年筆やインク、鉛筆などを作っていたメーカーのものだった。
当時としては「ブランドもの」に当たる。
ああ、丁度良かった。ではこれも入れてブログで紹介しよう。
そして写真も撮り終わった。
ところが、そこでまたちょっとした発見があった。
さぁ、書こうかと思ったタイミングで、
Webで連載している「文房具百年」の原稿の締め切り時期だったので
一旦そちらを優先した。
連載のその回は「スタンプ台」について書いたのだが
紹介するスタンプ台を見繕っているときに、スタンプ台の箱の中に
骨董屋さんが見つけてくれたのと
ほぼ同じプラトンの粉末インクが入っているのを見つけた。
*一番左が骨董屋さんが見つけてきてくれたインク。右3つがスタンプ台の箱に入れたままになっていたインク。
あれ?なんだ、私これを前から持ってたんだ。
全く認識していなかった。
記憶をたどると、入手した時はスタンプ台の箱が欲しくて、中身をよく見ていなかったようだ。
粉末のインクがあると思ってなかったので
薬か染料だと思ってそのままにしていた気がする。
このタイミングで発見されたということは、
スタンプ台の箱に入れられて、忘れられていたこのインクたちも
紹介してほしかったのだろう。
さらに、よく見ると一番右は粉末ではなくタブレットタイプだ。
三越のカタログに載っていたのは
こんな感じのインクだったのかな。
「こんなのあるの知らなかった」というワクワクと共に、
硝子のチューブに、固形のインクが入っている。
それも100年も前のインクだということにもわくわくする。
どんな色かな。
まだ使えるかな。
蓋が開けられるやつで、ちょっと溶かして書いてみようかな。
クツワ 店頭ディスプレイ付きステキ骨筆
昔の店頭ディスプレイで、ボール紙に商品を括り付けるのがある。
元は欧米から来た形式と思われるが、
残念ながら日本でその形の古いディスプレイの現物はなかなか見つからない。
という貴重なものを先日見つけることができた。
クツワの骨筆(こっぴつ)、店頭ディスプレイだ。
「甲」の字のようなマークはクツワさんが1958年まで使っていた「フリコ印」だ。
この部分のデザインが、格好いいし品もあってとてもステキだ。
「F.N.&CO.」ということは「西村福松商店」時代なので
大正9年以降になる。
デザインからすると大正終わりから昭和初期かな。
これが入っていた箱も一緒に入手した。
貼られているラベルのデザインも良い。
ところで、「骨筆」って何?という感じだと思うが、
謄写版の蝋原紙に書く道具のようだ。
インクを付けて書くのではなく、蝋原紙の蝋を削り取ることで
そこからインクを透過させて印刷する、というものかと。
※訂正 骨筆は謄写版用ではなく、複写用のペンとのこと。
複写用のペンとは何?という感じがするが、それについては別途どこかで実験&説明したい。
取り急ぎ訂正します。 2021/5/9
首のところがねじで開けられるようになっており、
中に予備が1個入っている。
軸のセルロイドの色合いや模様も
日本の事務用品らしい落ち着きがあって
味わいがある。
クツワさんは1910年開業の百年越え企業。
時々古いものが出てくるのだが、
昔のマーク時代が可愛いしなかなか良いデザインのものが多い。
今回も良いものを見つけた。
不易糊工業の墨汁ビンと澤井商店のインクビン
3月末のイベントの準備でバタバタしていて、
(その節はありがとうございました。)
そのまま月末月初の繁忙週間に突入し、
気づけばブログが1か月半更新あいてしまった。
もろもろ一段落したので、ブログ更新と共にちょっと一息。
という写真を載せたくなる墨汁のビン。
明治時代の古いビンも魅力的だが、代用品なのかな、
飲料のビンにしか見えないけど中身はインクや墨汁のビンって面白い!
と思って買ってしまう。
(ちなみに写真の中身は黒ウーロン茶。)
フエキ君をモチーフにしたお菓子や雑貨がいろいろ出てるけど、
昔の墨汁のラベルを貼ったドリンクとかもそのうち出てきたりして。
ラベルのデザインや社名が「不易糊工業」であることを見ると
大正終わりから昭和初期頃だろうか。
ラベルの両サイドには商品の宣伝文句が書かれている。
右と左は同じ内容のようだが、左側は漢文で書かれている。
昭和4年の広告を見ると、同じようなビン入り墨汁が載っている。
大きいビン類は保管も扱いも困るから
もう買わない、と何度自分に言い聞かせたことか。
でも、これは持っておきたいよ。
そしてもう一つ、持っておきたいのがあってさらにビンが増えた。
澤井商店の朱色インキ。
この王冠マークがいい。
それと蓋が木とコルクで出来ているので、
割と古そう。
大正時代の澤井商店のカタログの表紙の王冠と同じなので
これも昭和初期くらいかな。
(このカタログに載っているのとはデザインのトーンが違うので
もう少し後だと思う)
そういえば、澤井商店は不易糊の大手取扱店だったらしく
カタログの最後にこんなページが。
この時代の不易糊の瓶をずっと探しているのだが、
いまだに見つけられていない。
ちなみに、画像カラー部分は不易糊の商標が一枚一枚張り付けてある。
とてもきれいな色とデザインで、このページを見るたびに
しばらく眺めてしまう。
ということで、話があちこち飛んだが、
今回は不易墨汁と澤井商店朱色インクのビンの紹介、
以上だ。
質屋の紙風呂敷
骨董市で面白い紙を見つけた。
4つに折りたたまれているが、かなり大きい。
目を引いたのはピンクの罫線の罫紙や伝票のようなものが張り付いていたからだ。
「これ何?」
「質屋さんが預かったものを包む風呂敷だって」
「へぇ~面白い!」
確かに風呂敷と同じくらいの大きさで、それなりに丈夫そうだ。
「和五年」とあるので昭和5年のものだろう。
「さくらや」とあるのは質入れした持ち主のなまえかな。
よく見ると、札がたくさん並んだような絵?記号?文字??がいくつも書かれていた。
当時の質屋さんが使っていた記号とかかな。
伝票の用のものに「受渡」の印や、丸のようなマークは質流れさせずに引き取りに来たものや、逆に質流れになったものなのか、終了ということだろう。
つまり自分の店で使っていた帳簿や伝票も使い終わったら糊付けして風呂敷として再利用していたのだな。
私が入手したのは、罫紙など文房具が再利用されたものだが、
他に本か書類のようなものを再利用したものもあった。
最初の写真は外側にあたり、反対面はこんな感じ。
着物でも包んであったのだろうか。
紙は細かいものをたくさん継ぎ合わせてあり、二重三重になっているようだ。
薄くて丈夫な和紙だからできたことだろう。
そしてインクではなく墨というのも都合がいいのだろう。
この紙風呂敷自体は文房具ではないが、使用済みの文房具がこんな風に再利用されていたというのが面白い。
今も紙の再利用は積極的に行われているが、昔は昔で当時の生活や知恵で無駄のないように再利用されていたのだな。
こういう資料にも載ってない情報って
貴重だし面白い。
モノと情報を両方見つけてきてくれる骨董屋さんに感謝である。
うん、楽しい。
そうだ、お知らせ。
連載「文房具百年」。今月はチェックライターの最終回です。
改ざんとの戦いを続けるチェックライター、どんなものがあったのか
是非ご覧ください。
誰かのコレクション「芯」
骨董市で、フランスのペン先の箱にいろいろな種類の替え芯がまとまって入っているのを見つけた。
MALLATはフランスのペン先や消しゴムのメーカーだ。
個々の消しゴムが大好きなのだが、確か今はもうなくなっている会社だ。
どこかに吸収されてしまったと思う。
芯はまとまって、と言っても、入っていた箱が小さいので、大した数ではない。
一つ一つ種類が違うところを見ると、集めていたんだろうな。
A.W.FABERのが一つあったけど、あとは知らないメーカーばかり。
スイス製があったり、日本製にモノも混ざっている。
芯だけでなく小さな箱も集めていたようで
オシャレな箱がいくつもあったが、欧米のものが多かった。
芯を集めているというより、誰かが集めていたであろうものをばらしたくないなと思って
まとめて買い取ってきた。
箱までは手が届かず。
君たち、これまで一緒にいたんでしょう?
これからも一緒に居ればいいよ。
そんな感じ。
それと、時々誰かが集めていたであろうモノを引き継ぐのだが、
中身がバラバラになって元のコレクションがわからなくなってしまうことがあるので
そうならないよう備忘録もかねて。