今では特に珍しくないが、クリップには「KANOE PEACE」とあるのが気になった。
「KANOE PEACE」はシャープーペンシルを大正時代から作っていた森田製作所の商標だ。
軸の側面には「MSK」の文字もあるが、
これはおそらく「森田製作所株式会社」の略だろう。
(もう一つ刻まれている「MOM」も森田から始まる何かかを表しているのだと思うが、具体的にはわからない)
ちなみに、骨董市でも「KANOE」と刻まれている金属軸の繰り出し式シャープペンシルは比較的よく見る。
そのシャープペンシルを作っていたメーカーが、多色ボールペンを出していたことに
興味を持った。
調べてみると、シャープペンシルに詳しいYellowdaliさんのブログに
KANOEの4色のシャープペンシルが紹介されていた。
この4色シャープペンシルと、この4色ボールペンは
色別の芯を押し出すクリップが、金属とプラスチックという違いはあるが、
形もとても良く似ている。
金型や芯を出す技術的な部分はこの4色シャープペンシルから転用したのだろう。
なぜシャープペンシルメーカーがボールペンを作ったのか。
勝手な想像だが、シャープペンシルで有名だった森田製作所も、
戦後入ってきたボールペンにじわじわと押しやられたのではないだろうか。
昭和36年の業界誌の森田製作所の広告を見つけた。
このひし形のシャープペンシルは森田製作所のヒット作だったようだし、
海外へ輸出しているなど勢いが感じられる。
だが、この業界誌で他の筆記具の広告は、
ほとんどボールペンになっている。
日本のボールペンはまだ単色だが、海外のボールペンは多色式で8色、10色といったボールペンの
「どうだ!すごいだろう」といわんばかりの広告が掲載されている。
少し、森田製作所のシャープペンシル推しの広告が
時代に乗り遅れているように見えるのは勝手な先入観だろうか。
この後、昭和40年前後くらいだろうか、この4色ボールペンが作られたのは。
シャープペンシルの代わりを見つけなければいけないと思ったのかは
正直何とも言えない。
だが、私は後者だったのではないかと思うのだ。
シャープペンシルを作っていた会社が
別のものを作り出したところに
時代の流れが透けて見えると思った。
なお、森田製作所で検索すると2006年の業界名簿にはまだ名前があったようだ。
とすると、割と最近までは頑張っていらしたのだなぁとちょっと安心した。
話を聞くことができたら
さぞかり興味深い話が聞けることだろう。
話の大筋はここまでだがちょっとおまけ。
話の流れで入れる場所が見つからなかったので
最後に載せるが、天冠部分のねじを外すと、こうなっていた。
4色の芯の端にくびれた金具がついており、それを丸いミツマタのような形の金具で止めている。
下手に外すと復活できなくなりそうなので、ここまでにしたが、
ちょっと珍しい気がしたので一緒に紹介しておこう。
なかなか格好いい。