輸入・廃番文房具の発掘メモ

古い文房具を集めています。見つけた文房具や資料を紹介しています。

付箋紙とは。


これが「古い付箋紙」としてオークションに出品されていました。


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すこし前、ブングジャムの他故さんから、「ポストイットの前の付箋紙」について問い合わせがありました。
今では付箋紙というとはがれる糊がついた、いろいろなデザインのものばかりになっていますが、
一昔前は、白い細長い紙で端の方が赤く、裏に水のり(切手のようにぬらして貼るのり)がついているものが
主流でした。
そのあたりのことについては他故さんのブログをご参照ください。

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こういうものです。

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赤くなっているのとは反対側の裏側に糊がついています。
この写真の上の方の少し色が変わっているところが
のりです。

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割と最近、都内の文房具屋さんに残っていたのを束ごと買ってきました。
束は白い紙でくるんであります。

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持っている付箋のうちの一つは
「UNIVERSAL」とメーカー名が記載されています。


さて、私も付箋紙はいつからあったのかなどを調べてみました。


「付箋」というものは、書籍や書類の巻末などに、本編の補足のような内容を付けたものを指したり、
何らか記載した紙をくっつけるとそれが「付箋」と言われているようです。
郵便物に貼ってある「転送」「宛所訪ね当たりません」「税関で開封しました」なども付箋です。

これは私の感覚ですが、元は本編の補足のようなものを付箋といい、メモを貼る紙を付箋というようになったのは、あとからではないかと思っています。

そして「くっつける紙」としては、書籍や書類と同じサイズの大きい紙である場合もあれば
細長い場合もあったようで。

これは国会図書館のデジタルライブラリーで見つけた、寛政13年(1801年)の書籍に貼られた「付箋」です。

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国会図書館デジタルライブラリー より転載「買飴紙鳶野弄話 : 2巻」

この右側のページに貼られているものは「付箋」にあたります。

つまり、「メモ紙として貼ったもの」=付箋となるのでしょうか。
その場合、紙と糊と筆があれば付箋は成立します。
だとするとどれも日本には古くからあったものであり、「付箋」というものも、江戸時代よりもっと前からあったかも。

うーん、でも、使われた糊は姫のり以降かな。
とすると江戸時代以降となるかもしれません。

ただ当時「付箋」という名前ではなかった気がします。
便宜上、手ごろな紙にメモを書いて貼っただけで、貼った人は「付箋を貼った」とは
思ってなかったのではないかなと。

とにかく「付箋」的なものや使い方は江戸時代からあったとしましょう。
でも、この紙のことを「付箋紙」とは言ってなかったと思うんです。

調べると「付箋」という言葉は古くから出てくるのですが、「付箋紙」と「紙」をつけると
途端に見つからなくなります。
「付箋紙」となって、白地に赤いデザインになったのはいつからでしょう。

これを調べていたら「不審紙(ふしんがみ)」というものが出てきました。

不審紙:書物の中の不審な所に、しるしとしてつける紙。付け紙。付箋(ふせん)。
(デジタル大辞林

ここでは不審紙と付箋紙が同じものとして扱われていますが、
さらに調べると「赤い和紙でできており、裏に糊がついておりちぎって舐めて、書籍のわからない箇所に貼る」ものであることがわかりました。

名前も使い方も今の付箋紙と似ており、「赤い」というところに興味がわきました。
紙の読みが「かみ」と「し」でちょっと違いますが、同じ意味ですし。

不審紙が赤いのは、貼ったところを見つけやすくするため
付箋紙が白いのはメモを書くため

この2つのいいとこ取りをして、白地に赤いデザインのものが出来たのではないでしょうか。


勝手な想像は膨らみます。

そんな時にこれを発見。
「古い付箋紙」としてオークションに出品されていました。

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グッドタイミング!
これは面白いと飛びつくように買いました。

パッと見た感じでは明治から大正頃のものと思われます。
箱には見慣れない単語が書かれており、どうやら冒頭のCHARTAはスペイン語らしいことがわかりました。

スペイン語スペイン語が書かれている文房具都は珍しい!
それにスペインといえば南蛮貿易、江戸時代から交流があった国で、
文房具も江戸時代にスペイン、ポルトガルから持ち込まれたものもあります。

これはもしかして付箋というのはスペインから持ち込まれたものでは?
そしてそのデザインから白地に赤がスタンダードになったのでは??

と壮大な想像が広がります。

いやいや待てよ。ちゃんと調べよう。
まずは箱に書いてある言葉を調べよう。

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CHARTA EXPLORATRIA
R O T
Garantiert von M HAYASHI
OSAKA JAPAN


調べていくと、どうやらこれはリトマス紙の赤であるらしいことがわかりました。

ECHARTA EXPLORATRIA  → チャートを調べる
R O T               →  赤い
Garantiert von M HAYASHI  → M.HAYASHI氏が保証(M.HAYASHI氏はきっとどこかの大学の偉い教授とかだと思います)
OSAKA JAPAN         → 大阪 日本


リトマス紙かー。付箋じゃないんだー。
リトマス紙。。。。ならば実験してみよう。

赤のリトマス氏はアルカリ性に反応します。アルカリ性の代表選手は石鹸水、
ということで一晩石鹸水に浸してみました。

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左が実験したもの、右が何もしていないものです。

すごく微妙ですが、なんとなく青っぽくなっているの、わかりますか?
とても古いので、反応が弱くなっているようですが、
どうやらこれはリトマス紙で間違いないようです。


つまり「付箋紙はスペインから入ってきて、日本特有らしい白地に赤のデザインも
元はスペインから来たものだった」という想像は
全くの妄想だったようです。

とはいえ、リトマス紙の表紙と付箋の酷似、
捨てがたいものがあるんですよね。

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日本で最初にこのデザインで「付箋紙」として売り出した会社があるはずで、
そこがリトマス紙をみて思いついたとか、無いかな。(諦めが悪いですね 笑)

名前にしても、前回のブログに記載した通り「裏に糊をつけた小さな紙片」が付箋紙だとすると
大正元年にはまだ「付箋紙」という言い方をしていなかった可能性があります。

つまりこの「付箋紙とは」のお題である
「白地に赤、裏に水のり」の登場と、
名前がついたのはいつ?については何もわからなかったということです。

これは継続事案ですね。

おまけですが、「不審紙」も現物が見つからず気になっています。
書籍や紙を扱う骨董商さんに聞いても、不審紙自体をご存知ありません。

明治~戦前くらいまでは割と一般的に使われていたようなのですが
不思議です。

一つ言えることは、旧型の付箋紙にしても不審紙についても、
こういった小さなものは、短期間で跡形もなく消えてしまうという事。

外来種に負けてしまった日本固有の植物や生き物を彷彿とさせます。

そして、モノと一緒に由来や作る技術も消えてしまいます。
消えてしまう文房具は、大体が種として守らなければならないものではないのですが、
中には再現できない技術や、あってもよかったのにと思えるものもありますし、
まぁなにより知っている道具が消えてしまうというのは
淋しいものです。

付箋紙、不審紙(ふしんがみ)についての情報をお持ちの方がいましたら
是非お知らせください。
付箋紙の歴史を完成させましょう!


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