輸入・廃番文房具の発掘メモ

古い文房具を集めています。見つけた文房具や資料を紹介しています。

東郷クレヨン筆とものの名前

東郷クレヨン筆(くれよんひつ)という、なんだこれ?というものを入手した。

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表の絵は硬いが、裏側は可愛らしい。
中に入っているカードも女の子向きな感じだ。

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中はこんな感じ。

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クレヨンを紙で巻いて、使って減ったら巻いてある紙を切り取っていく。
1本2色の色鉛筆は一時期はやったようだが、クレヨンでは珍しい。

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この筆記具の名前が「クレヨン筆」となっているのは
鉛筆とクレヨンを合わせたようなものだからだろう。

あれ、でもこれは三菱鉛筆さんのダーマトグラフと同じものでは?
もしかして名前を変えただけ?

ということを考えていたら
前から気になっていたことを思い出した。

物の名前のつき方についてだ。

クレヨンは大正10年に海外から入ってきたが
それ以前に日本では色チョークとして販売されていた。

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左は大正元年ライオン事務器さんのカタログに掲載されているものと
多分同じもの。
商品名は「色チョーク」だが、箱にはCRYONと書いてある。
そして中身は「Saijyo Rohitu」と書かれた紙が巻かれている。

右はライオン事務器さんとは全く関係のない商品。
中身は同じ「Saijyo Rohitu」と書かれた紙が巻いてあるが、
商品名は「カラーペンシル」である。


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ともに大正時代のもので、フラワーペンシルと色チョーク。


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フラワーペンシルは木軸の鉛筆ではなく、
三角の色芯のようなもの。
中身は形が違うが、質感としては似ている感じだ。


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(追加であわてて取ったので画像が汚い。。。すみません)

校友チョークという色チョーク。フラワーペンシルととよく似ている。

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つまり何を言いたいのかというと、
「クレヨン」というものの名前が定着する前は
色チョークとクレヨン、カラーペンシル(要するに色鉛筆だ)が
ごちゃごちゃだったと思われる。

そして今回発見した「クレヨン筆」はもしかしたら
クレヨンの名前がカラーペンシルと色チョークからクレヨンに定着していく過程のものではないかと思ったのだ。
調べたところこのクレヨン筆は昭和10年の実用新案なので、
大正時代のものの名前の変遷には関係ないことが分かったが
これはこれでダーマトグラフとの関係は木になるところだ。


ちなみにクレヨンの語源はラテン語の「CRETA」から来ており、
「CRETA」はチョークの事らしい。
大正12年の「クレオンに就いて」という冊子に記載されていた。

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余談だが、この冊子は「市川喜七商店」というクレヨンメーカーが作ったものだ。

クレヨンメーカーではあるが「市川鉛筆」という鉛筆メーカーとして有名だった会社で、
クレヨンが流行りはじめ、学校の授業でも色鉛筆がクレヨンにとってかわられ、
しぶしぶクレヨンを作り始めたようだ。

内容はクレヨンについての説明とクレヨンの選び方が記載されている。
どうやら当時はアメリカから入ってきた柔らかく簡単に作れるクレヨン→蝋製クレオ
それより硬く、削って先端をとがらせることもでき、複雑な製造工程のクレヨン→硬性クレオ
という種類があったらしい。

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内容をさらっと見たところ、
大正10年にアメリカから蝋質のクレヨンが入ってきて、色鉛筆が隅に追いやられてしまった、
とか

蝋質ではなく硬質クレヨンを頑固に進めるのは国民のためだ

とか
とにかく「硬質クレヨン」推しなのだ。

冊子の最後に1ページ余ったようなのだが
そこにも「硬質クレオン推し」を押し込んでいる。

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そしてここで言われている「硬質クレオン」とは
要するに色鉛筆の芯のようなものではないだろうか。

つまり、アメリカからやってきたクレヨンに追いやられてしまった色鉛筆を
ちょっと製法と名前を変えてクレヨンとして売っている

そんなことではないかという気がした。

ものの名前。

今は「クレヨン」というと、ほとんどの人が同じものを思い浮かべるだろう。
だが最初はそうではなかった。

明治の終わりから大正にかけて、
新しいものが海外から入ってきたり、新しく日本で作られるようになって
一番普及したものの名前が定着した。
その結果がたまたまチョークでもカラーペンシルでもなく「クレヨン」だったということだ。

同じ事はいつの時代でも起きているだろう。
今は定着していないが今後名前になっていくものもあるだろうし
反対に消えていったり、変わっていく名前もあるはずだ。

名前というものは絶対的に変わらないもののような気がするが
そうではないんだと、古いクレヨン類が手元に集まるにつれて実感したことである。