鉄兜消しゴム
終戦の日も終わり、まだまだ暑いが8月も終わりに近づいてきた気がする。
戦争中、物資がなかったことから新しい素材で作られた文房具がある。
行ってみれば代用品だ。
紙やセルロイドが代用品素材としては知られているが
消しゴムにも代用素材のものがあった。
油脂素材の消しゴム。
そしてその油脂で作られた消しゴムで、ごく一部の間ではあるがちょっと知られた消しゴムがある。
鉄兜消しゴムだ。
古い文房具を集め始めて、間もないころだったと思う。
なんだかよくわからないが、買っておいた。
後にトンボ鉛筆で扱っていたものだということがわかった。
この消しゴムにはいくつかのバージョン違いがあって、今のところ3種類入手した。
二番目に見つけたのはこれだったと思う。
見つけた後に人に譲り、その後また見つけて手に入れた。
そしてその後に見つけたのがこれ。
後の2つには「日商選定新興品」「発売元 トンボ鉛筆」と書いてある。
ついでに「油脂性」とあり、天然ゴムではない原料の消しゴムであることがわかる。
昭和16年の官報にも油脂性の消しゴムについての表記があるので、
当時複数のメーカーから作られていたようだ。
※日商選定新興品は日本商工会議所が代用品の中で品質がいいものを選定してお墨付きを与えていたものらしい。
この消しゴムについてはトンボ鉛筆の100周年記念サイト
「トンボのキセキ」にも紹介されている。
https://www.tombow.com/100th/chronicle.php
トンボ鉛筆は1939年発売とのこと。消しゴムとともに広告も掲示されている。
この広告だ。
※この広告の画像をどこから持ってきたのか忘れてしまった。
支障がある場合はお知らせいただければすぐに削除します。
この広告の鉄兜消しゴムは、トンボ鉛筆とも「日商選定新興品」とも書いていない。
文章には「トンボ鉛筆の工場で新しい消しゴムができました」とある。
そしてもう一つ鉄兜消しゴムの資料がある。
文房具の公定価格の資料に掲載されていた広告だ。トンボ鉛筆の表記はない。
背景に鉄兜消しゴムの画像が使われているので切り出してみた。
かなりわかりづらいが、これには「日商選定新興品」らしき文字が見える。
品番は12-10ではなく24か34-5と読める。
これらの消しゴムや広告の情報から察するに、
最初からトンボ鉛筆の工場で作られたのではなく、
おそらくどこかの会社が作った消しゴムが良いものだったので、
トンボ鉛筆がその工場と契約して販売するようになったのだろうと思っている。
消しゴムにも「製造元」ではなく「販売元」と書かれている点もそれを裏付けているように思える。
また、この消しゴムのバージョンは少なくともあと2つありそうだ。
一番最初がトンボ鉛筆の広告にある鉄兜としか書かれていないもの
次が「鉄兜」「12-10」と書かれたもの。
その次が、広告の背景になっている「日商選定新興品」と書かれたもの、
そしてトンボ鉛筆と書かれている2つのバージョン。
そこでもう一つ謎がある。
「トンボ鉛筆」の名前があるもののうちの一つは
英語で「IRON HELMET」「DRAWING ERASER」と書かれている。
戦時中の商品であり、トンボ鉛筆は敵国の言葉を使わないように鉛筆の硬度を「中庸」などの表現に変えていたことも知られている。
とすると、この英語表記のある消しゴムがいつごろのものかがわからないのだ。
デザインからすると、これが新しいと思えるのだが、
この時代新しい=戦争が激化しているはずである。
うーん。英語表記のデザインにしてから、のちに古いデザインに戻したのか。
この鉄兜消しゴム、昭和10年代に発売されたとして
終戦とともになくなった消しゴムであろうと考えると、
短い間にいろいろなバージョンも出るなど
一つの消しゴムとしては激動の人生を送ったのではないだろうか。
鉄兜消しゴムは素材やイラストの時代感も面白いが
どうやら消しゴムの変遷にも面白さがあるようだ。
引き続き情報も消しゴムも探してみようと思う。