輸入・廃番文房具の発掘メモ

古い文房具を集めています。見つけた文房具や資料を紹介しています。

古く大量の便箋の表紙

古い便箋をまとめ買いしました。


「便箋の表紙」と言った方が正確でしょう。
殆ど表紙だけ、あるいは中身が残っていてもほんの数枚です。
全部で100種類ほどありました。

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「これだけまとまったコレクションはなかなか出ないよ」

骨董屋さんにそういわれて、「確かに!」と思い手に入れました。

大量の便箋の表紙。
でも「コレクション」という表現に少し違和感を感じました。

100種類もの便箋の表紙がまとまっているので
「コレクション」と言えば「コレクション」です。

でも「コレクターのコレクション」とは何か違う。
表紙だけとはいえ、同じものが多い。
それになぜ「表紙だけ」なのか。

主な時代は戦前。便箋のデザインを見ると
昭和10年代からですが、いくつか混ざっているノートを見ると
大正から昭和一桁台と思われるものもあります。

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ノートは持ち主の子供のころの物でしょうか。
なお、一番下の「数学」のノートには「小石川高等女学校」とあります。


戦争色の強い便箋表紙。
昭和10年台半ばから後半のものと思われます。

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持ち主が女性の為か、戦闘機類の数、種類はさほど多くありません。

そして抒情便箋

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松本かづちや中原純一などと当時の人気画家のものも
あります。

あとお花や海をモチーフとしたものもたくさんありました。



さて、抒情便箋の表紙に、こんな文字があるものが結構ありましたよ。

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「手紙の友」とはなんでしょうか。

開いてみるとなかから「手紙好きの人たちの通信」のようなものが出てきました。

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便箋の後ろについています。
便箋は既に使われていて残っていません。
どうやら毎月1回便箋+通信という形態で作られていたようです。

裏面は4行詩など、ちょっとこそばゆい感じのする作品が並んでいます。


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これを見て、「コレクション」に違和感があったことの答えが分かった気がしました。

この便箋の表紙のコレクションの持ち主は、
表紙を集めていたのではなく、すごい手紙好きだったのではないでしょうか。

どんどん手紙を書く。
気に入った便箋は一時期集中して使うから
同じ表紙のものが溜まる。

集めることが目的ではなく、
この方は手紙を書くのが好きで、たまたま使い切った便箋の表紙が集まっちゃった。

そんなところではないでしょうか。

文房具は道具なので
学校で使われていた文房具は、その時代の教育の内容や方法が分かったりします。
仕事で使われていた文房具には、仕事のやり方が反映されたりします。

便箋というのは文房具の中でも
個人的な用途で使われることが圧倒的に多い文房具だと思います。

だから便箋のデザインに個人の嗜好というか
時代の風潮などが色濃く出ますし、
使用されたものだと、持ち主のことが見え隠れしたりします。

面白いですね。もののデザインの面白さから興味が時代や持ち主に広がります。

「手紙の友」には発行日が記載されており、
昭和14年~15年でした。戦争色が強くなっている時代です。

もともと手紙好きだったのか、
戦時中の不安を手紙で紛らわしていたのか。

そこまではわかりません。


なお古い便箋は書き損じが残っている事が多いのですが
この便箋の束にはほとんど残っていませんでした。

一枚だけ、下書きなのか出せなかったのかわからない手紙がありました。

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鉛筆なので見づらいですが
戦地のお兄さんにあてた手紙です。

前半は大相撲の話で、「十両から上がってきた東富士がとても強くて、きっと横綱になるだろう」と
あります。

最後の方の数行は
山本五十六元帥が戦死されて、最後の勝利を誓った」
とあります。

調べたら「東富士」は昭和18年5月に十両から新入幕。本当に横綱になっていました・
山本五十六元帥は昭和18年4月に戦没。

どうやらこの手紙は昭和18年5月にかかれたもののようです。

お兄さんも海軍だったのでしょうか。
便箋の表紙に海やヨットの図柄のものも多く含まれていました。
海が描かれた便箋でお兄さんを思って
お兄さんへ手紙を書いていたのでしょうか。


そしてこんなものもの。

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便箋の間に一枚の写真。透ける素材の繊細な紙の間にありました。
裏を返すと「兄 25才、17.1.1」と。


ふと写真を数える時に「一葉」という言い方をすることを思い出しました。

一葉・・・紙など、薄いもの一枚。 「写真一葉」
大辞林 第三版より)


物理的には薄いけど、この便箋に挟まれた写真の存在は
薄いものでは無かったでしょう。


戦争が終わってお兄さんは無事帰ってきたのでしょうか。
これも今となってはわかりません。

「再会できていたらいいな」と
見知らぬ写真と便箋の表紙の束を前に思います。


これ以上のことはわかりませんが、
持ち主の女性は、戦後もたくさんの手紙を書いたのでは
と思われます。

表紙のデザインがなんとなく戦後と思われるものも
混ざっているから。

それだけの理由なんですけどね。



久しぶりに誰かに手紙を書きましょうか。