軍用チョークのセット
前回更新から2か月半も空いてしまって、このまま消えてしまいそうだったが、
やめない、まだまだ書くよ。
今回は軍用チョークの話だ。
軍用チョークは文字通り軍隊で使われていたチョークで、
地図に印をつけたり、距離を測るのにつかわれていた道具だ。
ちょっとしたきっかけで、軍用チョークとそれを使用するための器具の存在を知ったのだが、チョークも器具もお譲りしたので手元になく、
同じようなものを探していた。(チョークは一つだけ手元に残っている。)
過去のブログでも紹介しているので、
よろしければご参照ください。
https://tai-michi.hatenablog.com/entry/16284292
https://tai-michi.hatenablog.com/entry/17652169
https://tai-michi.hatenablog.com/entry/17559906
今回見つけたのはこちら。
これはふたを開けたところ。
ずっと探していたので、思わず「あった!」と声が出た。
ふたはこうなっていて、製図用具かと思って、開けずに立ち去りそうだったのだが、
これを持っていた骨董屋さんが軍隊や戦時中のものを中心に扱っている方だったので、中身を確認した次第だ。
チョークと関係なく、うれしかったのは消しゴムだ。
これは「ヒノデムカイドリ」の商標でおなじみ(個人的には)の田口ゴムの消しゴムだ。
〇で囲まれたマーク部分は「M」「r」は分かるが何と書いてあるのだろう。
S.I.PENCILもパッと思いつかない。
品番が昔一世を風靡した(らしい)A.W.FABERの鯨印消しゴムと同じ6006番で、
「ここにもあったか6006番!」という感じだ。
消しゴムが入っていたのはうれしいが、この軍用チョークのセットでは
消しゴムは不要なので、もともとこのセットに入っていたものとは違う気がする。
さて、右側の緑色の箱がチョークだ。
並んでいる文字が興味深い。
一番上の「TACTICS」戦術、戦法からきて、T.K.CHALKの下は、「無鉛・無毒」だ。
チョークに有害物質が含まれていないことをうたっている。
ラベルには「特製 偕行社」とある。
偕行社とは、「戦前に帝国陸軍の将校准士官の親睦・互助・学術研究組織として設立された同名の「偕行社」(旧偕行社)で、戦後は旧陸軍の元将校・士官候補生・将校生徒・軍属高等官および、陸上自衛隊と航空自衛隊の元幹部自衛官といったOB・OGの親睦・互助・学術研究組織として、会名をそのままに「偕行社」として運用されている。」(ウィキペディア)
そうだ。
そして、「偕行社は一種の企業としても一大組織であり、各地の偕行社では将校准士官および見習士官を対象とする軍服を筆頭とする各種軍装品(中略)の製作・販売、および陸軍将校や関係者用の喫茶店・旅館(各地の偕行社に付属)、学校の経営なども広く手がけていた。」(ウィキペディア)
更に、偕行社の商品には五芒星(5つの核を持つ星)のマークがついていたそうで、説明いろいろに「そうそう、あってる!そのとおり!」となる。
なるほど、軍隊の道具を作っている組織のものだったのか。
中のチョークはこういうものだ。
以前見つけた軍用チョークと同様、青とピンクの細いチョークだ。
青が自軍で赤が敵、とか、青が現在地で赤が目的地、みたいな使い方をしてたのではないかと。
一緒にセットされている器具は中にチョークが入っている状態だった。
金具をスライドさせると青とピンクのチョークが出てくる。
これで地図に距離を測りながら、戦略を描いたのだろう。
なぜチョークか。拭けば消えるからだ。
拭けば消えるには利点が3つ考えられる。
一つは繰り返し使えること。もう一つはいざというとき簡単に消せること。
そして消すことができれば、もし地図が見つかっても戦略がばれないこと、かな。
そこで一緒に入っている布の登場だ。
おそらくこれで拭いて消したり書き直したりしていたのであろう。
少し戻るが、このチョークは細いので、折れないように腰高のケースに入っている。
それでも緩かったのか、細く切った新聞紙が巻いてあった。
それを広げてみた。
動乱、国民、時局、東亜、皇国、国防など戦時中らしい文言が並ぶ。
「小泉信」まで読めるが、明治生まれの教育者で「小泉信三」という方がいる。
海外に留学もしているので、おそらくこの人のことだろう。
「ライオン軍」とあり、調べてみると「松竹ロビンス」というプロ野球チームがあり、1937年(昭和12年)秋 - 1940年(昭和15年)までこの名前だったらしい。
ということは、おそらくそのころのものだろう。
他の軍用チョークも昭和12年頃のものと推測されるので、
時代感もあっている。
戦争をモチーフにした文房具は多いが、軍隊で実際に使われていた文房具というのは
軍隊手帳以外は、実はあまり知られていない。
そして、戦争で使われていたチョークの鮮やかで優しい色合いは、見るたびに悲しい気持ちになる。
このセットを使っていたのは、戦略を立てる将校さんだろうか。
見ると、器具の中に入っているチョークは使用中だが、箱に入っているのは
未使用だ。
壊れやすいチョークがこの状態で残っているということは、きっとこのチョークの持ち主は無事に帰還したのだろう。
そう想像して軍用チョークの紹介はここでおしまい。
そして、軍用ではないが、前から追いかけている「色チョーク」、クレヨンについて、文具のとびらの連載「文房具百年」に記事を書いた。
長いけど、いったん自分なりのクレヨンの歴史をまとめたので
ぜひ読んでほしい。
「日本のクレヨンとその歴史1」https://www.buntobi.com/articles/entry/series/taimichi/010387/
「日本のクレヨンとその歴史2」
https://www.buntobi.com/articles/entry/series/taimichi/010760/