芋づる式に雨森文永堂ホッチキス
マックスさんのホームページに掲載されている「ホッチキス物語」のホッチキスの歴史に「雨森文永堂」というホッチキスメーカが出てくる。
この雨森文永堂がどういうホッチキスをつくっていたのかわからずに、ずいぶん前からもやもやしていた。
だが、資料や現物をたどったら、芋づる式に雨森文永堂のホッチキスや情報が確認できたので、今回はその紹介だ。
最初に見つけたのは「林商店」という会社のカタログに掲載されているホッチキスだ。
雨森文永堂のホッチキスが載っているとは思わず、事務用品が載っているようだったので入手した。
掲載されているホッチキスの特許番号を調べて初めて、雨森文永堂のホッチキスだとわかった。
その後、この「ジョイント」の現物を発見。それがこれだ。
木の土台に固定されており、なかなか格好いい。
どこにも雨森文永堂とは書かれていないが、カタログ画像と現物ともに、本体つなぎ部分に「Y.Z.A」と刻まれているところが同じだ。
「Y.Z.A」はおそらく「雨森賴三」→YoriZou Amamoriの略と推測できる。
また、土台についているマークも同じものと判別できる。
ホッチキス物語で雨森文永堂のホッチキスとして紹介されているのは「ジョイント(2号)」だ。このホッチキスは「Joint」なので、ホッチキス物語に掲載されているのはこのホッチキスのことだろう。
このときに、ふと同じページに掲載されている針が気になった。
ジョイント用として紹介されている針だ。
特許番号No.100604番を調べると、針の製造法に関する特許で、こちらは雨森氏の特許ではないが、「本器用」となっているので、雨森文永堂の人物か協力関係にある会社などだろう。
特許を見ていて、記憶に蘇るなにかがあった。この特許見たことある。えーと、別のものを見ながら調べたことがある。
ホッチキスの針の箱の形がぼんやりと頭に浮かぶ。
そしてホッチキスの針の保管箱を漁る。あった。
このホッチキスの針の針には同じ特許番号100604が印刷してあり、中にもこの特許に基づく製品であることを示す小さいカードが入っていた。どうやらジョイント用の針として林商店のカタログに掲載されていたものと、
同じメーカが作ったものらしい。
そして今度はこの針の商標「WHEEL」と、箱の横に書いてある「FOR WINSALL」、これが気になった。これも見たことがある。何かに載っていたはずだ。えーとえーと。。
そうだ、「原田商報」というリーフレットだ。
ここに「WHEEL」の商標の鉛筆が有り、「WINSALL」というホッチキスが載っている。
WINSALLというホッチキスと雨森式の関係はわからないが、針は同じものを使うようだ。
ちなみに、この2つの資料、一見原田商報のほうが新しいように見えるが、原田商報が昭和12年、林商店カタログが推定昭和15年頃と林商店カタログのほうが遅い。
ただジョイントの特許自体は昭和5年の申請なので、WINSALLのほうが雨森文永堂のジョイントより先にあったということではないようだ。
そしてこの原田商報にはもう一つホッチキスが掲載されている。ムカデ針タイプのホッチキスだ。たまたまこれは現物を持っていた。
本体のデザインが動物や装飾ではなく「HAND」と文字になっているのが面白いと思って購入し、あとで原田商報に同じものが掲載されていることに気づいたのだ。
で、このムカデ針のホッチスはどこの製品だ?
原田商店のホッチキスの商標は「コイン」なので、原田商店のものではない。
ちょうど「文具のとびら」の連載でホッチキスについて調べる機会があったので、昭和4年の資料からホッチキスの商標を調べる。
「ハンド」・・・・あった。おお!雨森文永堂の商標だ。
整理するとこうなる。
林商店のカタログに雨森文永堂のホッチキス「ジョイント」が掲載されている
→同じページにジョイント用の針が掲載されている
→その針の特許番号と同じ番号をつけた針が原田商報に載っている
→原田商報には「HAND」と刻まれたデザインのムカデ針のホッチキスが掲載されている
→雨森文永堂のホッチキスの商標は「ハンド」である。
ということで、ムカデ針の「HAND」ホッチキスも雨森文永堂のものと判断した。
若干狐につままれたような分かりづらい相関状況ではあるし、
WINSALLというホッチキスとの関係や、針及び針製造機械の特許権利者との関係性、
原田商報を出している原田商店と雨森文永堂との関連など細かいことはわからないが、
ここは状況証拠でよしとしよう。
原田商報に載っている「HAND」も雨森文永堂のホッチキスだ。
というわけで、芋づる式にいろいろでてきたよ、の話はここまで。
ついでにもう一つ紹介。
雨森文永堂のことを考えていると、雨森文永堂の商品が寄ってくるようで、最近これも見つけた。
ハンディタイプのホッチキスだ。これはホッチキス物語に出てくるホルダー9号に当たる。
「戦時中は、9号ホッチキスのみ軍服の補修用として軍より認められ、生産されていた」と紹介されている。
雨森賴三氏の特許申請は昭和10年だが、それより前から別の会社が作っていたようだ。
黒い塗装で引き締まった感じが格好いい。動かしてみたら今でも軽く止められた。
そして、これも入れるといつの間にか雨森文永堂の資料とホッチキスがそこそこ集まっていた。
以前に買ったものがかなり今になって効いてきたケースだ。
ラッキー on ラッキーといった感じで、とにかくありがたい話である。
「迷ったら、引っかかったら買っておけ」
と信じて突き進みたいところだが、
現実問題そうも行かないので、やっぱりご縁が大事、ものとの出会いは。
あと、以前に手に入れた現物や資料、時々見直すの大事。
当時は見えなかった情報や関連性が見えたりするので。
・・・と実感した今日このごろ。
さて、最後にPRを。
文具のとびらの連載「文房具百年」の最新記事が2月20日アップされた。
ムカデ針のホッチキスの話の後編だ。
ホッチキスだらけですが、ぜひこちらもご覧ください。